MATLAB ユーザーコミュニティー

MATLAB & Simulink ユーザーコミュニティー向け日本語ブログ

NASA の DART ミッション、小惑星への衝突に成功

※この投稿は 2022 年 9 月 30 日に Behind the Headlines (Lisa Harvey) に投稿されたものの抄訳です。


 

DART (Double Asteroid Redirection Test) は、地球近傍天体(NEO, Near-Earth object)に対するプラネタリーディフェンス(planetary defense, 地球に衝突する可能性がある小惑星を早期に発見し衝突を防ぐこと)の調査ために設計された NASA のミッションです。

先週、地球から 1100 万 km 以上離れた小惑星「ディモルフォス(Dimorphos)」に DART を衝突させました。このミッションは、宇宙機を衝突させることが小惑星の軌道を変えるために有効かどうかを確認するために計画されました。

ディモルフォスは地球の近くにあったわけでもなく脅威でもなんでもありません。地球を脅かすような NEO はまだ知られていませんが、将来 NEO が発見されれば、この技術が活用されるかもしれません。

 

ディディモス連星に衝突する前の DART 宇宙船とイタリア宇宙庁(ASI)の LICIACube のイラスト。Image Credit: NASA/Johns Hopkins, APL/Steve Gribben.

ディディモス連星に衝突する前の DART 宇宙船とイタリア宇宙庁(ASI)の LICIACube のイラスト。Image Credit: NASA/Johns Hopkins, APL/Steve Gribben.

 

DART が打ち上げられたのは 2021 年 11 月。DART は時速 20,000 km/h というスピードで航行し、そして 2022 年 9 月 26 日、予定通りターゲットに衝突しました。その長い 10カ月の旅の最後の数時間前まで、DARTの搭載センサーにはそのターゲットは見えていませんでした。

ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡は、衝突前とその後数時間にわたって衝突地点の観測を行っていました。その近赤外線カメラで撮影された画像には、衝突の中心から霧のような物質が流れている様子が写っています。

 

NASA のジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した、9月26日19時14分(米国東部時間)の衝突直前から衝突後 5 時間までのタイムラプス動画です。コアから噴出した物質が、衝突した場所から流れ出るように見えます。急激に明るくなった領域が確認できます。Credits: Science: NASA、ESA、CSA、Cristina Thomas (Northern Arizona University)、Ian Wong (NASA-GSFC); Joseph DePasquale (STScI)

NASA のジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した、9月26日19時14分(米国東部時間)の衝突直前から衝突後 5 時間までのタイムラプス動画です。コアから噴出した物質が、衝突した場所から流れ出るように見えます。急激に明るくなった領域が確認できます。Credits: Science: NASA、ESA、CSA、Cristina Thomas (Northern Arizona University)、Ian Wong (NASA-GSFC); Joseph DePasquale (STScI)

Dinosaurs 0, Asteroids 1

NASA の推定では、約 2000 年に一度、サッカー場ほどの大きさの隕石が地球に衝突し、衝突地点付近で大きな被害をもたらし、そして数百万年に一度、地球の文明を脅かすほどの大きな天体がやってくるとされています。月や地球などの惑星にあるクレーターが証拠です。

その一つが白亜紀・古第三紀に起こっています。National Geographic によると、6600万年前に小惑星が地球に衝突し、すべての非鳥型恐竜を含む地球上の全生物種の76%が絶滅したそうです。その小惑星は時速 72,000kmでメキシコ沖に激突しました。恐竜を絶滅させた小惑星の大きさはディモルフォスの約 75 倍で、全長 12 km もの大きさでした。

ディモルフォスは、その大昔に衝突した小惑星よりもはるかに小型で全長 160 m。地球から何百万 km も離れた小さな目標に DART を衝突させるためには、新しいタイプのナビゲーションシステムが必要でした。ミッションの最後の重要な時間における人的エラーの可能性を排除するものでした。

Throwing a DART at a moving target

DARTの衝突までの誘導には自律誘導システム SMART Nav (Small-body Maneuvering Autonomous Real Time Navigation) が使用されました。MATLAB とC++ で開発されたSMART Nav は、宇宙機の航行に関する決定を行う DART に搭載された自律アルゴリズムで、他の誘導航法システムとともに、ディモルフォスを発見し、そして人間の介入なしに宇宙機を誘導しました。

NASA によると「小さな操縦のミスが、時速 13,000 miles (20,000 km) 以上でディモルフォスにぶつかるか、通り過ぎるかの分かれ目となる」と、ミッションの最後の数時間の大事な肝でした。「SMART Nav は宇宙機の姿勢の保持・補正を行うだけではありません。宇宙空間にある物体の位置を確認し、正しい小惑星を選択、軌道を推定するものです。”ディモルフォスを叩く”という上位の指令を達成するために、その場で自律的に操縦を行いミッションの最後の 4 時間を人間の介在なしでやりきりました。」と、メリーランド州ローレルにあるジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所の SMART Nav チームの誘導・航法制御エンジニアであるマーク・ジェンセニウス氏。

Knocking Dimorphos off its track

NASA によると「DART 調査チームは、DART がディモルフォスに衝突したときの結果を、小惑星への運動衝突の詳細なシミュレーションと比較する予定です。そうすることで、このアプローチの有効性を評価し、将来のプラネタリーディフェンスにどのように適用するのが最善か、シミュレーションがどの程度正確で、実際の小惑星の挙動をどの程度反映しているかを評価します。」とあります。

また New York Times によると「欧州宇宙機関が建設中の宇宙機 Hera が、二つの小惑星、特に DART が作った爪痕を細かく観察するために到着する数年後に、より詳細な研究が行われる。研究者たちは幅 90cm – 180 cm のクレーターがあると見積もっている。」とのこと。

続報に期待が高まります。

 

 

|
  • print

コメント

コメントを残すには、ここ をクリックして MathWorks アカウントにサインインするか新しい MathWorks アカウントを作成します。