名古屋大学が学生フォーミュラ競技でSimulinkを駆使しアクセラレーション日本記録を更新!
お久しぶりです。
MathWorksで学生フォーミュラのサポートをしている飯島です。
今回は8月末から9月にかけて行われた学生フォーミュラで新記録を出した名古屋大学チームのMATLABの活用方法を知るべく話を伺ったので、そのまとめた内容を紹介させていただきます。
そもそも学生フォーミュラとは?
学生フォーミュラ競技は、大学生が自動車のデザインから製造までを一貫して行い、その成果を競い合うプラットフォームです。自動車工学の未来を築く若き学生エンジニアたちが、フォーミュラスタイルのレーシングマシンの設計・製作を通して、熱い情熱と卓越した技術力を競い合う場です。各競技項目は、車両設計や制御設計の集大成をタイムという結果として見ています。その中でもアクセラレーション競技は加速性能を評価する中でも特に重要な要素です。名古屋大学Formula Team FEMは驚異的なパフォーマンスを発揮し、アクセラレーション競技で歴代最速タイムを叩き出しました。そしてチームは、この快挙の背後には、MATLABおよびSimulink を駆使したトラクションコントロールの成功があると言います。
MATLABの魅力とは?
学生フォーミュラ車両の開発は、学生が主体となって行うこともあり、時間、人数、資金といった面で大きな制約があり、試作を繰り返すような開発は難しくなっています。そこで、シミュレーションを活用することが、効率的な開発に繋がり、より優れたパフォーマンスのマシンを作ることを可能としています。 名古屋大学Formula Team FEMでは、そのようなシミュレーションにMATLABとSimulinkを使用しています。 MATLABは、数値解析、シミュレーション、データ解析、制御システム設計など、さまざまな科学技術分野で利用されています。名古屋大学Formula Team FEMのエンジニアたちは、このソフトウェアを使用して、車両諸元決定、制御系設計、冷却系設計などのために様々なシミュレーションを行っています。ここでは、その中でもアクセラレーション競技日本記録に大きな貢献をした、トラクションコントロールについて紹介していきます。
トラクションコントロールの重要性とは?
トラクションコントロールは、自動車の加速性能において極めて重要な要素です。車両を加速させるための力であるタイヤと路面間の摩擦力は、タイヤの空転度合 (スリップ率) により変動します。このスリップ率を最適化することで、最大のトラクションを確保します。これは、アクセラレーション競技において、タイム向上のための大きな要因の1つ となります。
- MATLABとSimulinkのトラクションコントロール
名古屋大学のチームは、MATLABとSimulinkを使用して緻密なトラクションコントロールアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムは、車輪速度、車速などのデータを収集し、適切なトラクション制御を行います。
- モデルと説明
トラクションコントロールを実装するにあたり、アクセラレーション競技用のモデルをSimulinkを用いて作成しました。 このシミュレーションモデル内の車両モデルは3自由度の2輪モデルで作成し、そこで用いられるタイヤモデルは試験データからMagic Formulaを用いてフィッティングし作成されています。また、この車両モデルのコントローラにあたるECUモデルは、実際の車両のECUに実装されるものとほぼ同じモデルとなっているため、シミュレーションで作成された制御系を簡単に車両に実装することが可能となっています。
図1:シミュレーションモデル (提供: 名古屋大学Formula Team FEM)
実際に、シミュレーションを行った際の車両前後方向の加速度変化は図2のようになります。
図2:トラクションコントロールON/OFF時の前後加速G (提供: 名古屋大学Formula Team FEM)
トラクションコントロールによって、特に加速開始後1.3秒間ほど大きく加速Gが向上していることが確認できます。この際のシミュレーション上でのアクセラレーションタイムはトラクションコントロール適応前では3.784秒に対し、トラクションコントロール適応後は3.616秒と0.168秒の短縮に成功しています。
また今回の大会での最速タイムが3.649秒だったのに対し、シミュレーションでのタイムは3.616秒とその差わずか0.033秒とほぼ 実機とシミュレーションの結果が同じであることは驚異的です。
このように、MATLABとSimulink の強力な数値解析能力とシミュレーション機能を活かし、チームはさまざまなシナリオでトラクションコントロールの最適化を実施しました。これにより、競技車両は最適なトラクションを確保し、最高の加速性能を発揮できるようになったのです。
成功への道のり
MATLABを活用したトラクションコントロールの開発は、名古屋大学のエンジニアたちにとって多くの挑戦を伴いました。シミュレーションでのテストと実際の車両でのテストとで試行錯誤を繰り返し、最適なパラメータを特定しました。さらに、競合他校との競り合いで絶えず改善を続け、最終的に最速タイムを達成することに成功しました。
今後の展望
今回はMATLABを用いたアクセラレーション競技のシミュレーションと、それを利用したトラクションコントロールの開発について紹介しました。しかし、学生フォーミュラ車両の開発においては、他にもさまざまな用途においてMATLABを役立てることができます。例として、より自由度を増やした4輪モデルによる直接ヨーモーメント制御の開発、ラップタイムシミュレーション、冷却系のシミュレーション、バッテリーシミュレーションなど、幅広い分野にMATLABによるシミュレーションは適用可能です。名古屋大学Formula Team FEMはアクセラレーション競技だけでなく周回競技でも良い成績を残すことを目標に、今後もMATLABを用いた車両開発を進めていくと話しています。
終わりに
名古屋大学の学生フォーミュラチームの成功は、MATLABとSimulinkを駆使したシミュレーションとの有用性とトラクションコントロールの重要性を示すものでした。 今回のようにMATLABやSimulinkを用いたモデルベースデザインでの成功を体験し、将来の優秀な自動車業界のエンジニアが育つことを考えると非常に嬉しく思います。名古屋大学の偉業は、優れたエンジニアと優秀なソフトウェアツールの組み合わせが、最高の結果をもたらす可能性を示唆しています。今後の学生フォーミュラチームの進化に期待しましょう。
謝辞
今回、MATLABやSimulinkの活用方法を共有していただき、記事執筆にも多大なご協力をいただきました名古屋大学チームにこの場を借りて心より感謝の意を表します。ご協力、誠にありがとうございました。改めて、アクセラレーション日本記録更新ならびに2023年大会 EV部門1位、本当におめでとうございます!!
名古屋大学 2023年度車両 FEM-20 (提供: 名古屋大学Formula Team FEM)
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